“毒”から始まる恋もある


 数家くんからの電話は、その日の夜にかかってきた。


『俺、来週は木曜も休みなんです。夜、食べにきませんか? 【U TA GE】に』

「……休みなのに【U TA GE】で食べるの?」

『俺の中では一番旨い店ですからね』


これはまた面白いこと言うわね。
サダくんに負けず劣らず、自分の店のことは大好きなんだな?


「……ところで今は営業用なの?」

『あ。……もういいじゃないですか。敬語キャラってことで勘弁して下さいよ』

「でも、なんかイヤなんだもの。ねぇ、数家くんって歳いくつよ」

『そんなに変わりませんよ。二十八です』


ほうほう、二歳下か。


「【U TA GE】で勤めて何年なの?」

『開店と同時ですから五年ですね。その前に勤めていたところで今の店長……片倉さんとは一緒だったんです。開店する際に一緒に引き抜いてもらったって感じですね』

「数家くんのこと、凄い信用してそうだったもんねぇ」

『俺、高卒で就職したんですけど、最初に勤めた店の店長が職人気質の料理人で。俺を板前に育てようと頑張ってくれたんです。それこそ、調理師学校にも行かせてもらったし、板前だった片倉さんの下で勉強もさせてもらえて、感謝してます。
……でも、俺、接客は好きだけど調理はあんまり好きじゃなくて。片倉さんはそれを見抜いていたんですよね。『お前のやりたいことやらせてやるから俺の店に来い』って」


おお。なんか格好いいな。誘い文句。

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