“毒”から始まる恋もある
「……尊敬してるんだ?」
『はい。凄い人だと思ってます。それに、片倉さんの作る料理は本当に美味しいし。彼の料理を、心地よい空間で食べてもらえるのが楽しいっていうか』
随分嬉しそうに話すなぁ。
そして楽しそうな声っていうのは聞いていて心地いいものなのね。
『……って、俺の話ばっかりだ。刈谷さんはお仕事どんなことしてるんですか?』
「仕事……ねぇ。経理とか雑用とかよ。給与計算したり、研修のセッティングしたり。基本は社員が仕事に専念できるよう雑務を引き受ける部署ね」
『根詰めるお仕事ですね。目とか疲れませんか?』
「そうねぇ。目もだけど、肩? 結構凝るわ」
『なるほど』
なんとなくお互いの事を話しつつ、何時間でも話しちゃえそうな雰囲気だけど。
告白っていつすればいいのかな。
なんとなく、サダくんと別れたばかりでもう乗り換えるのかって思われるのも嫌だし。
でも、数家くんも誘ってくれるから脈が無いわけじゃないと思うんだけどなぁ。
『じゃあ、木曜、おすすめメニューを予約しておきますから』
「うん」
『是非感想聞かせてください』
一つ疑わしいと思えるのはこのセリフなんだよなぁ。
私と一緒に食事したいのは、単純に意見が欲しいだけだったらと思わないこともない。
もともと、彼は私の毒舌を買ってくれているところはあるしね。
敬語を崩されないのも、私を客だって思ってるからじゃない? って思うと納得できてしまうから嫌になる。
そもそも、彼がフリーかどうかだって確認したこと無い。
休日には映画だって行っているようだし、そういやつぐみちゃんが私を時々敵対視して見るし、もしかしたら彼女がいる可能性だってあるじゃない。
ああ。
私にしては珍しく後ろ向きだわ。
電話を切って、答えのでない堂々巡りの思考を繰り返すこと数分。
「……若く見える服でも探そ」
何事も努力よ、努力。
考えて落ち込んでいるより行動だわ。
もし彼に彼女がいたとしても、別れるかもしれないし、先のことなんてわからないじゃない。
私は、せいぜい自分が綺麗に見えるように頑張るだけよ。