“毒”から始まる恋もある


 会わない期間には数回メールがきた。
内容はお店のメニューのことが多かったのだけれど、一度だけ、【徳田さんが食べに来てくれました】と一言だけ書いたメールが来た時があった。

答えに窮して返事を出さず、気まずい気分を抱えた数日。
その間、彼からの追加のメールもない。

だってなんて返事すればいいのよ。
良かったね、もなんか違う気がするし。
彼の話もあまりしたくはない。

結局しびれを切らした数日後、【木曜、楽しみにしてるから】と返した。

【はい、お待ちしています】とすぐに返事は来たけど、なんとなく、少しだけ私達はぎこちない。


そして木曜日。

終業後に髪を巻き直し、今日はバッチリミニスカート。
抜かりはないはず、まつげもバッチリ盛ったわよ。


「ねぇ、菫、私変じゃない?」

「綺麗ですよ?」

「お世辞はいらない。本気で思った通り答えてよ。怒らないから」


菫は一瞬驚いてように目を見開いた。


「……刈谷先輩。今日誰と会うんですか?」

「え」


まさかの切り返しに言葉が詰まる。

いや別に隠すことも無いけど。なんだろう、まだ片思いの段階では言いたくない。


「いや。うん。いい。私帰る」

「あ、先輩」


鞄を掴んで逃げた私の背中に、菫の声が響いた。


「綺麗というか、可愛いです! とっても」


綺麗じゃなくて、可愛い、か。
三十女には褒め言葉にはならないような気がするけど、まあいいか。

菫の言葉に背中を押されて歩き出す。


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