“毒”から始まる恋もある



「やあ、刈谷さん」


定時がすぎ、一度化粧直しをしようかと廊下にでると、エレベーターホールからこちらに向かってくる里中くんと出くわした。

相変わらず王子様オーラが出てる。
なんだろう、傍にいると空気が清浄化されていく気がするのよ。こんな男、めったにいないのになぁ。


「里中くん」

「今日悪いね。菫のこと頼むよ」


もう話が伝わっているのか。
いつの間に会話したのよ。社内メールでイチャつくのやめてほしいわ。


「里中くんが連れてってやればいいじゃない」

「俺、これからまた会議なんだよ。年度末だから時間取れなくてさ。ごめん」


どうやら、忙しいのは本当らしい。
じゃあなんで営業部にはあまり関係がないこのフロアにやってきたよ。


「で、そのお忙しい人がここに何の用?」

「帰る前に菫にちょっと」

「あっそ。まだデスクでモタモタしてるわよ」


菫と付き合いだした里中くんを見ていて、予想以上に嫉妬深いことに驚いた。それに過保護。

格好いいなと思う気持ちは変わらないけど、その束縛をもし自分にされたらちょっと面倒臭いとも思ってしまう。
まあ、私は選んでもらえなかった訳だけどさ。

でもまあ、そういう意味では、里中くんへの気持ちは自分の中で折り合いがつきつつある。
凄く好きだったけど、自分とは合わない人だったって。

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