“毒”から始まる恋もある
「……あ、ゆずね」
レモンかと思って食べたそれは、ゆずのさっぱりした味がした。
バニラと混ざると、濃厚な味の最後にさっぱりした感覚が訪れる。なんだこれ、不思議な味わい。
「美味しい」
思わずうなって食べていると、数家くんがテーブルの向こうで手を組み、その上に顎を乗せて私を見ている。
「……以前、オレンジとレモンのシャーベットを出したでしょう?」
「え? ああ」
菫たちと来た時だ。
「あの時はすいません。本当は片方バニラにするつもりだったんですけど、私情を挟みました」
「私情って?」
「徳田さんとお付き合いしてると言われたら、自分でもびっくりするほど面白く無くて」
彼の瞳が、じっと私を見ている。
え? ど、どうしたの。
これはもしかしてもしかする展開なの。
鍋で温まったせいだけじゃなく、体が熱くなっていく。
「昔はこんな風に仕事に私情挟むことなかったんですけどね。……溶けますよ?」
数家くんに促されて、私は再びアイスを口に運ぶ。
ほてった体を冷ますアイス。刺激される味覚は甘さ。
その時不意に数家くんが表情を固くした。
襖の閉められた隣の方を見つめて眉を潜めたかと思うと、私に向き直り笑顔になる。
「……ここでてから少し話せます? お時間とらせませんので」
「わ。わかった。……から、その、敬語止めてよ」
「ああ。癖で。すいま……ごめん」
ドキドキする。せっかくのアイスの味がわからなくなってきた。
分かるのは甘いってことだけ。
私が食べ終わったのを確認すると、数家くんは立ち上がり、隣との仕切りの襖をいきなり開けた。
するとそこには、身をかがめている店長さんがいる。