“毒”から始まる恋もある
「……仕事してください」
「失礼だなぁ光流。仕事はしてるよ、ほら、テーブルの片付けを」
「あなたの仕事は厨房でしょう。そこは上田や房野に任せればいいんです」
「あーはいはい。分かった分かった」
店長さんはいたずらっ子のように笑うと、すごすごと去っていく。
「全く」
数家くんは腕組みしてそれを見送りつつ、伝票を手にとった。
「無駄に心配されるのも迷惑。行こう、刈谷さん」
「う、うん」
店長さん……面白いな。思っていたイメージと違うかも。
「お会計失礼します」
レジに立ってくれたのは、つぐみちゃんだ。
支払いを済ませた数家くんが、「店長、見張っててやって」というと、苦笑する。
そうして。……私には見えてしまった。
彼女が、唇を噛みしめるところ。
「夜はまだ寒いですね」
店を出て、外気温にさらされて身震いをした時、彼の声が言う。
それと重なるようにつぐみちゃんの声がした。
「数家さん」
「房野……。どうした?」
「すみません。でも、……どうして、私じゃダメだったんですか」
真に迫った瞳で、彼女は数家くんを見つめる。
数家くんは苦笑すると彼女のおでこを軽くつついた。
「房野は大事な仲間だからだよ」
「でも」
「房野が気づいていないだけで、君は俺に恋はしてないよ」
意味深な会話を前に、まるで空気のようだわ、私。
とは言え深刻なところを邪魔するのも何だしな。