“毒”から始まる恋もある
「もともとはその毒舌に興味があったんです。このくらいはっきりモノを言う人なら、少なくとも普段聞けないマイナス意見をはっきり言うだろうなって。有益な意見であるかどうかはこちらで判断すれば良い話ですが、まず意見が上がらないことには検討のしようがないでしょう?」
「まあそうね」
「誕生日ケーキのサービスは、以前のモニターさんの意見から取り入れたことなんです。なので、鍋にケーキが合わないというのも言われてみたらそうなんですが、それまで疑問には思ってなかったんですよ。単純に、誕生日にサプライズがあれば嬉しいだろうなぁって感じで考えていたので」
そうか?
でも確かに、彩音たちも何の疑問も持ってなさそうだったなぁ。
実は大多数の人が疑問に思わないところだったのかしら。
「そういう意味で、刈谷さんは面白い意見をくれる人って認識だったんです、俺には」
数家くんが視線を夜景の見えるガラス窓に向ける。
展望スペースは寄り添うように歩く恋人同士や、ガラス窓にへばりつくようにしている人でいっぱいだ。
「……一年くらい前なんですけど、俺、振られたんです」
「うん?」
何の話よ。
突然話が飛んだぞ?
「高校時代の憧れの人で、再会して直ぐに好きになりました。でも相手には彼氏がいたんですよ」
数家くんの視線が下を向いた。
「頑張った……つもりですけどね、まあ振られて。その彼女が、先月店に来たんです。結婚したらしくて、旦那さんと一緒に。俺、なんか、ちょっとショックで」
「……うん?」
「その時に、刈谷さんが予約の電話をくれたんです。ほら、四月十九日の予約」
「ああ」
「咄嗟に、あなたの『鍋とケーキは合わない』って言葉を思い出して。お祝いにと彼女たちにケーキを出してみたんです」
「はぁ? 案外性格悪いわね」