“毒”から始まる恋もある
「ええ。なんかその時は、試してみたくなったんですよ。彼女がどう言うか。お祝いのケーキ、でも鍋には合わないケーキ。それを、そんなふうに受け止めるか」
数家くんの口元がいたずらに笑みを作る。
続きを聞きたくて、私は彼の腕をつついて急かした。
「で、どうだったの、彼女の反応」
「……ありがとうって笑ってくれました」
彼が私をじっと見る。その顔からフッと笑顔が消える。
「否定されたかったの?」
「……かも知れないです。でも実際、否定したのは一緒に来ていた旦那さんの方だったんです。『旨いけど、和食には合わねぇだろ』って。なんかそれ見ていたらおかしくなってしまって。不意に吹っ切れたんです。彼女と彼はお似合いだったし、幸せそうだから、もういいなと思えて」
「うん」
「そうしたら、今度は刈谷さんが頭から抜けなくなってしまったんですよ」
腕を触っていた私の手を彼の反対側の手が掴む。引っ張られて、私と彼は向かい合うような状態になった。
「一度気になるとダメなんですよね、俺。頭の片隅で、いつも刈谷さんだったらなんて言うだろうって考えるようになりました。料理だけじゃなく、テレビとか映画とかでも。だから映画の話できた時も面白かったです。俺とは違う意見が出てくるし。……でもその時に、もう徳田さんと付き合ってるって知って、まあ面白くなくてですね」
「うん?」
「だからあの日のシャーベットでちょっと反抗してみたというか。すいませんでした」
「はぁ?」
あの酸っぱいシャーベットにそんな意味があったの?
「子供か!」
「自分で思っていたよりそうだったみたいです」
「呆れるわ」
「でも、不味過ぎはしないでしょう。許容範囲かなってところでしたつもりですけど」
「そりゃそうだけども」