“毒”から始まる恋もある
番外編 悪酔いはしないから
本日は夏メニューの試食会。
久しぶりの【U TA GE】への道のりを、私はなぜか谷崎と歩いている。
「ちゃんと意見を言えないとダメなのよ? 分かってんの?」
「分かってるよ。メニューに対する意見をいい方悪い方の両方の観点から言えばいいんだろ。それだけで夕飯にありつけるなら悪くない」
「憎まれ口じゃだめなのよ?」
「あーも、うるせぇな、刈谷」
谷崎は膨れて早歩きになる。リーガルのビジネスシューズとの距離が五歩分以上開いた。
なによ、心配してやってるのにその態度は。
そのタイミングで私達とは反対の駅方向に向かう集団とかちあい、私は逆方向に押されそうになった。
なんとか抜けだして顔を上げると、谷崎が立ち止まって待っている。
「……ほら、行こうぜ」
「そこで、素直に『大丈夫か』とか聞けないからアンタはモテないのよ」
「あーうるせぇ」
「大体、助け出すだけのスマートさが無いからダメなのよ」
「あー、うるせぇうるせぇ」
私の毒舌が気に入らないのか、谷崎が舌打ちをして再び歩き出した。
だけど今度は、二歩分くらいの距離しか開かなかったけれど。