“毒”から始まる恋もある

その夜、光流に連絡すると、『どんな感じの人?』と確認される。

諸手を挙げて喜ぶかと思いきゃそういうわけでもない。
そうよね、誰でもいいわけじゃないものね。


「物言いは居丈高なんだけど、ちょっと照れ屋で。あー、私の誕生会の時にも居たんだけど覚えてないよねぇ」

『あの時は……男性が二人いたよね。眼鏡かけてる方?』

「そう。正解」


覚えているのかよ、どうなってるの記憶力。
いぶかしがるのが伝わったのか、光流はくすくす笑い出す。


『人の顔覚えるのは慣れてるんだ。店に勤めるようになってから厳しく言われたしね。何度も来てくれる人に失礼があったらいけないから』

「あらそう」


なるほど、接客好きを自認するだけはあるわね。


『史から見たら彼はどう? モニターに向いてそう?』

「……大丈夫……だと思う。つか、指導しておく」

『分かった。試食会の日に一緒に来てもらって』

「んー」


あんまり喜んでもらえなかったか、なんて残念に思っていると電話口から零れ落ちる声。


『ありがとね、史』


この時間差使うのやめてくれないかしら。下げてから上げるとか心臓に悪いし!
でも私って単純だわ。言葉ひとつで直ぐ元気が出てくる。


「どういたしまして」

『夜、行ってもいい?』

「いつでもどうぞ」


電話を切って、幸せ気分になる私。
光流と過ごす夜は、寝不足にはなるけれど心には凄く栄養がもらえる。

浮かれつつも胸に去来するのは使命感。

この私が選んだことになっているのよ。
谷崎を立派なモニターにしなきゃ、面目立たないじゃないの。

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