“毒”から始まる恋もある



……そんなこんなで、今私は必死に自分なりの心得を谷崎に伝授しているわけだ。


「でも、刈谷が最終的に【U TA GE】の店員と付き合ってるとは知らなかった」

「ふふん。恋は何処に転がっているか分からないのよ」

「さすが常にアンテナ伸ばしている女は違うな」

「ほっとけ」


なんと言われようと、幸せいっぱいの今は堪えないから。


「あー何が違ったのかねぇ」


谷崎が大きなため息をつく。
ちらりと私を見て「もうバレてるから言っちゃうけどさ」と前置きする。


「俺、絶対落とせるって思ってたんだよね、刈谷のこと。いつも物欲しそうにしてたしさ、誘えば簡単に着いて来るんだろうなって。実際、最初の部屋に連れ込んだときは簡単だったし」

「あの時は失恋の傷が癒えてなかったからよ」


むしろ、アンタに軽んじられたから身持ちが固くなったとも言う。


「でも本気になった途端に全然釣れねぇっていうか。俺も意識するとなんか上手く言えねぇし」

「そうね。アンタは予想外に照れ屋さんだったわ」


まさか、眼鏡を直すクサイ仕草が照れ隠しだとは気づかなかったもの。

でもあれ、止めたほうがいいわよ。
回数を重ねるほどウザく見える。


「私、谷崎は格好つけようとしないほうがいいと思うわ」

「そうか?」

「うん。ただ偉そうになるだけなんだもん。本当に偉いならそれでもいいけどさー。ただの平社員じゃん」

「お前はその一言多いのを何とかしたほうがいいぞ」


軽いどつきあいをしながら【U TA GE】の前まで着いた。


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