“毒”から始まる恋もある
「こんばんは」
扉を開けると同時に、光流が営業スマイルを見せる。
「いらっしゃいませ。こちらが谷崎さんですか?」
「そう。ほら、挨拶しなさいよ」
肘で小突くと舌打ちが飛んでくる。
「うるせぇな。母親かよ。……刈谷と同じ藪川商事の谷崎です。宜しく」
「……よろしくお願いします」
ちょっと間を置いて光流が返事をし、私達を誘導する。
「皆さん、お待ちです。こちらへどうぞ」
いつもと同じ営業スマイル……と言いたいところだけど、なんか違う。
光流から静かに怒りオーラを感じる。
え? 何?
まさかもう既に谷崎が気に入らないの?
まだ何の失言もしてないよね。
勘弁してよ。
小上がりまで行くと、以前同様既に北浜さんと紫藤さんが先に来ている。
この二人は時間に正確だなぁ。
「刈谷さん、お久しぶりです。彼氏さんですかぁ?」
のんびりした癒やし口調で、とんでもないことを言い出す紫藤さん。
「違います。会社の同期で。……私、訳あって今回でモニターを辞める事になったので代わりに」
「谷崎です。よろしくお願いします」
私の言葉を引き継ぐようにして、谷崎が挨拶をする。
「徳田くんも辞めるんだってね」
向かいの席についた私に、北浜さんが笑いかける。
「そうみたいですね」
「なんだ。一緒に辞めるって言うから何事かあったのかと思ったのに」
北浜さんは茶化すように私を見た。
何事もなかったとは言わないけど、オジサマに言う必要も無いでしょうと、私は愛想笑いで流した。