“毒”から始まる恋もある
席について、前回のように軽い自己紹介を交わし、運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。
いつものように栄養成分について紫藤さんが話し、北浜さんがお値段について質問をする。
それに光流が答えている時に、谷崎が口を挟んだ。
「ラタテュイユとカポナータって何が違うんだ?」
「へ?」
カポ…なんとかって何?
私知らないかもそれ。
「この間別の店で食べたんですよね、こんなかんじの野菜煮込み。カポナータって名前だった気がするんだけど」
ちらりと光流を見ると、考えるように口元に手をあてた。
もしかして、彼も分からないのかな?
「ラタテュイユがフランス料理でカポナータがイタリア料理だったと思いますが、……ちょっと詳しく厨房で聞いてきます」
「あ、すいません」
「数家さん、大丈夫ですよ。私分かります」
身を翻そうとした彼を止めたのは紫藤さんだ。
「二つとも材料は殆ど一緒なんですが、敢えて言うならカポナータの方はナスが主役になりますね。そして素揚げするんですよ。ラタテュイユは……」
「……炒め煮ですね」
彼女の視線を受け、最後は光流が答える。
「さすが紫藤さん。助かります。すみません、勉強不足で」
「いいえ。とんでもない。私こそ出すぎた真似をしまして。ここでモニターさせていただくようになってから、私、料理の勉強が楽しくて。本業の役にも立つし、助かってるんです」
紫藤さんが頬を染めてはにかみ、光流がニコニコ笑って見つめている。
なんなのよ、仲いいわね。
ちょっとムカムカする。
別に仲良く話されるのが嫌だとは言わないけど、相手が紫藤さんだというのが嫌だ。
彼女のようなタイプは苦手だ。
私が絶対になれない、“可愛い女”の典型みたいな人。