“毒”から始まる恋もある
「久しぶりに片倉の目の輝いたところを見たな」
「北浜さんは店長さんと昔からのお知り合いなんでしたっけ」
「ああ。あいつは昔俺の部下だったんだよ」
このスーツの似合う、いかにも重役風な雰囲気の人の?
「え? 北浜さんって、飲食関係の方だったんですか?」
素直に疑問を投げかけると、北浜さんははっとしたように口元を抑えた。
「でも、前のお店の時も常連さんでしたよね。その前ですか?」
光流も疑問に思ったのか北浜さんに尋ねる。
そこで北浜さんは目を泳がせたかと思うと、はははと笑った。
「ああ。でもあの頃のことは話すなって言われているんだった。悪いね、歳を取ると口が滑りやすくなる」
逃げられた感満載。
いやいや、そこまで言ったんなら滑り台を下りる勢いで話しちゃえばいいのに。
「……俺、意外と知らないかも、店長の過去」
小上がりを下りる瞬間に、彼は私にだけポソリと囁いた。
予想外に落ち込んでいそうな声だったから、近寄って顔を覗き込む。
「ショック?」
「なのかな。なんか変な感じ」
「必要ないから言わないだけじゃないの?」
二人の信頼関係は傍目に見ててもしっかりあるようだし、そんな落ち込まなくてもいいんじゃん?
慰めたつもりはなかったけど、光流は小さく笑うと私の頬をそっとくすぐった。
「ありがと」
「ん」
厨房を確認するためか、彼はそのまま小上がりの襖を閉めて出て行った。
と、視線をテーブルに戻すと、皆が私に注目している。
「え? 何ですか」
「なんだ。刈谷さんは徳田くん狙いかと思ってたが違うのか」
北浜さんが仕返しとばかりに楽しそうに言う。
「え、え、なんで」
「まあでも彼でもお似合いだな。良かった良かった」
勝手に納得しないで。
なんで? なんでバレてるの、私と光流の関係。