“毒”から始まる恋もある
「うふふぅ、分かりますよう。今の、ただならぬ空気感でしたもん。数家さん、完全に私たちのこと忘れてましたよ、多分」
紫藤さんまで楽しそうに私の腕を掴む。
さっきの会話がそんなに?
普通に話してたつもりだったのに。
助けを求めて谷崎を見ると、うんうん頷きながら舌打ちされた。
「すっげ、空気甘ったるかった。人前でくらい遠慮しろよな」
「あ、……は、ごめん……なさい」
確かに、分かりやすいとはよく言われる。
気分がすぐ態度に出るって。
……吐き出しているのが毒の時には、周りも何も言ってこなかった癖に。
なんで“好き”がだだ漏れてると皆に冷やかされるのよー!
これは、かなり恥ずかしいかも。
「刈谷さん、真っ赤ですよ? 可愛い」
楽しそうに紫藤さんが言う。
いやいや、あなたみたいな歳下に言われたくないわよ。……って思うけど、反論する言葉さえ、見つける余裕がない。
「あーあ。やってらんねぇなぁ。独りモンには目の毒だ」
ふてくされたような谷崎。その時、紫藤さんがふふふと笑う。
「あら。谷崎さんお独りなんですか? 一緒ですね」
「へ?」
間の抜けた返事をした谷崎は、改めて紫藤さんをみて、首を振る。
「う、嘘だ。こんな可愛い子が独りって」
「やだ、可愛いなんて。本当にモテないんですよ、私。職場もご老人ばかりで出会いも無いですしね」
「……じゃあ」
途端に、谷崎が眼鏡を触り始めた。よくよく見ると額に汗をかいてる。照れ屋スキル発動か?
「もうひと押ししないからモテないのよ、谷崎」
形勢が逆転したので強気で耳打ちしてみると、「うるせぇな」と言い返された。
「はは。若い人たちは楽しそうだな」
見物を決め込んだ北浜さんの笑い声に、場が一気に砕ける。
「お待たせしました」
光流とつぐみちゃんが料理を運んできたところで、紫藤さんが「ちょっとお手洗いに」と席を立つ。
慌てて追いかけた谷崎を見て、私と北浜さんは顔を見合わせて笑った。