“毒”から始まる恋もある



「ではまた、変更したメニューのお知らせを出させていただきますね」


試食しながら、食べ比べ用メニューの構想が膨らんだのか、光流は幾つか案を出し、皆で意見を交換した。

そしてたった今、お開きになったところだ。

帰ろうとしたら後ろから服を引っ張られた。


「史、帰る?」

「うん。まだかかるんでしょ?」

「片付けに一時間。待たない?」

「そうねぇ」


一時間なら待っててもいいかな、と思ったところで、谷崎が私の腕を掴む。


「刈谷、頼む。この後付き合え」

「ちょ、何よ」

「紫藤さんを誘ったんだけど、皆でって言っちゃったから」

「二人で話したいから誘ったんでしょ?」


そこで弱気になるなよ、ヘタレめ。


「北浜さんも大丈夫だっていうしさ。……ダメだ俺。酒入らねぇと調子でねぇよ。お前も来いって。頼む」


変なとこ情けないなぁ。
でもまあ、どうせ待たなきゃならないなら飲んで待つほうが楽しいか。


「……一時間だけならいいわ」

「恩に着る」


一部始終を聞いていた光流は、苦笑しつつ「飲み過ぎないように」と私に釘を刺す。


「大丈夫よ。悪酔いはしないから」

「上がったら電話するから」


見えないようにこっそりと指を絡ませて、私は彼らに続くように【U TA GE】を出た。
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