“毒”から始まる恋もある


 北浜さんが駅の方へ消えていく。私は、光流を探して駅ビルの一階へと下りた。


「史」


名前を呼ばれて振り返ると、私服に着替えた彼がいた。


「盛り上がった?」

「光流も混ざれば良かったのに」

「あまりモニターさんと距離を縮め過ぎると良くないから」


確かにね。
親しくなればどうしたって批判は引っ込んでしまうし、評価も甘くなっていくだろう。

改札をくぐって乗り場に向かう。
反対側のホームに向かうために地下道を下りた。

周りの人達はせわしなく歩いて行くけれど、私たちはゆっくり歩いた。
二人で歩くなら、ただの帰り道もデートのようなものだ。


「史が新しい人探してくれて良かったよ」

「そう?」

「なかなか、面白いアイデア出してくれる人だったし。……でもよりによって自分に気のある男連れてくることは無いと思ったけどね」

「……ん?」


ニコニコ笑っているけど、もしかしてちょっと怒ってる?
いつの間にか壁際に寄せられている。肩が壁にくっつきそう。


「谷崎とはなにもないわよ?」

「来てすぐ、軽く睨まれたけど、俺。史と親しいところ見せつけてくるしさ。明らかに挑戦されていた気がする」

「そう?」


そうだったか?
でも、頭上でかわされている視線までは私も見てないしな。


「俺だってちょっと対抗したくなるよね」

「……ってことはもしかして」


途中わざと親しい素振りをしたのはそれ?


「史がモニター辞めるなら、バレたっていいでしょ、別に」


ぺろりと舌を出されても。
私はかなり恥ずかしい想いをしましたけど?

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