“毒”から始まる恋もある


「俺だってたまには見せつけたいんだよね」


その時、電車が到着したからか、歩いていた人たちが小走りに階段に向かった。

それに気を取られているうちに、トン、と背中を押されたかと思ったら、彼に後ろから壁に押し付けられた。

壁に手をついた彼に、体の正面を壁に預ける形になっている私。背中に彼の硬い体を感じる。
壁ドン……っていうのか? これ。

「……え?」

戸惑っているうちに、右手が私の顎を掴んで、無理矢理後ろを向かせる。
そして、……奪うようなキスをされた。

彼の左手は私の体の前に回り、後ろから抱きすくめられる。


あれ、もしかしてちょっと、お酒臭い?


「……光流、もしかして飲んでる?」


唇が離れた瞬間に聞いてみると、お酒の香りとともに返事がくる。


「分かる?」


腕の力も緩んだので、体の向きを変えて彼を見つめる。
確かに目の周りが少し赤い。


「史と約束してるって言ったら、店長が面白がっちゃって。料理に使ったワイン余ったから飲むまで帰さないって言われたんだ。早く帰りたいから一気飲みしてきた」

「バカね。酔いが回ってんじゃないの?」

「そうかもね。大胆な気分にはなってる」


大胆というか野獣じゃん。
好きな人じゃなきゃドン引きするところだわよ。

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