“毒”から始まる恋もある
たまたま、人がホームに上がっていくタイミングだったからいいけど、これ見られたら大問題だわよ。
それに、電車がついたってことは降りてくる人もいるわけで。
「きゃっ」
階段からこちらに来た人が、一瞬足を止めて叫ぶ。
光流は苦笑して私の体を離した。
「ごめん。がっついてた」
「痴漢と間違えられるわよ」
「史にじゃなきゃしないよ」
「当たり前よ。さ、帰りましょ」
歩き出すと、左手が繋がれる。当たり前みたいに指が絡まってそこから熱が生まれてくる。
「……今日行っていい?」
「いいわ。酔っぱらいみたいだから介抱してあげるわよ」
「悪酔いしたかな」
「そうね。一気に飲むからよ」
手を絡ませたまま、電車に乗り込んだ。
電車はそこそこ混んでて、彼は私を囲うようにして立つ。
「今日は俺我慢きかないかも。覚悟しといて」
耳元でぎょっとするような事を言われて、上目遣いで彼を見つめる。
「何の覚悟?」
「明日の朝、寝不足で会社に行く覚悟かな」
サラリと爆弾発言をした後、小さく鼻歌を歌い出した。
“理想の彼”はスーツが似合う歳上の男。
でも本当に好きになった人は、淡白な外見をしているくせに、中身はなかなかに肉食な歳下の男の人だった。
結局、好きになったらどうしようもない。
恋は、理屈じゃなくて本能でするものなんだろう。
一度好きだと思ったら、どんな仕草もどんな発言も、愛おしく思えてしまうんだもの。
「……光流って飲ませると面白いのね」
本音を言ってみたらぎょっとした顔をされる。
「そんなにおかしかった?」
「ううん。いつもよりグイグイ来るから楽しい。……ね、もう一本ワイン買っていこうよ」
今度は彼が目を丸くする番だ。
「これ以上飲ませる?」
「大丈夫、今度はゆっくり飲みましょ」
だからもっと、違うあなたを私に見せて。
【Fin.】