“毒”から始まる恋もある
私が尻込みしているのに気づいたのか、数家さんは再び安売りスマイルで武装した。
「驚かせてすみません。実はお願いがあるんです」
「お願いって?」
「お客様からの率直なご意見は、店の宝です。でもなかなか、こうして本音を漏らしてくださる方は少ないんですよね。よろしかったら、モニター契約をしてもらえませんか。新商品が出るときなど、食べてみてご意見を頂きたいんです」
「はぁ?」
「今も数人に頼んでいるんですが、どうもパンチのある意見は少なくて。この書き込み見た時コレだって思ったんですよね」
「でも私」
「考えてみてください」
数家さんは胸元のポケットから名刺を取り出すと、私に手渡した。
仕方なく受け取ってはみたものの、先ず状況が理解できない。
何だモニターって。
「あれ、刈谷先輩遅かったですねぇ」
「ええ。まあちょっとね」
席に戻ってからも放心状態でビールを煽ると、数家さんがふたたびやって来る。
「サービスです。ぜひ、ご検討くださいね」
オレンジのシャーベットが二つ。
賄賂か?
気を利かせ過ぎだっての。コレで断れって難しくない?
すべてを食べ終えた後、菫は上機嫌で「ここで決めます。サービスもとてもいいですし。今日は付き合って頂き、有難うございました」と頭を下げる。
「ああ、いいわよ別に」
いちいちそこまでご丁寧にしなくてもいいのよ。まあ悪い気はしないけどさ。