“毒”から始まる恋もある
「刈谷さんも駅まで一緒に行こうよ」
「私はもう少しブラブラするわー。どうせ帰っても一人だし」
「何いじけてんの?」
里中くんが笑う。からかっているのか心配しているのか、どっちともつかない口調で。
ああその顔、いいよね。すっごい好み。
「可哀想だと思うなら、菫を振って私と付き合ってよ」
「それはダメ」
「だったら、変な心配はいりません」
里中くんとの言葉遊びは、楽しいけど苦しい。
私は地面を蹴って手を振った。
「じゃあね、また来週」
「ありがとう、刈谷さん」
里中くんは菫の肩を抱くようにして歩き出した。
昔は、顔見ると逃げられるって感じだったけど、菫と付き合ってからは彼も優しくなったように思う。
人って変わるもんなんだよなぁ。
「あーあ」
重い溜息が出るのは、羨ましいからだ。
恋がしたい。片思いじゃなくて、思いが通じ合う恋。
誰かから心底愛されてみたい。
「ねー、おねーさん。一人?」
いつの間にか、ガムをくちゃくちゃさせながら帽子を目深にかぶっている男が隣を歩いていた。
同じくらいの年代かな。格好はラフだけど、顔はそこそこ年取ってそう。
「二人に見えるんなら、あなたは霊感があるのね」
「はは。面白いね、おねーさん」
「どうも」
「ね、暇ならどこかで飲まない?」
「そうねぇ」