“毒”から始まる恋もある


「徳田です。よろしゅう」

「あ、刈谷です。よろしくお願いします。徳田さんは関西の方……?」

「や、小さい時から転々としてまして。なんか色々混ざっとるんですよ。標準語も話せん事ないんですけどね。このインパクト、結構使えるのでインチキ方言喋っとります」


にかっと笑ってみせられて、心臓はキュンと鳴る。

ちょっと、いいわよいいわよ、いいじゃない。

年も私より上みたいだし。
久々に来た里中くん並みの好条件。

敢えて言うなら私の好みよりは軽いけど、まあそこは許容範囲で。


「わあ、そうなんですか。私今度、大阪方面に旅行したいって思ってるんです。ぜひ穴場とか教えて下さい」


そんな予定ないけど、会話を繋げるための第一歩だ。

前のめりになった私に、隣の女は軽く身を引き、目の前のおじ様はニヤニヤと微笑む。

これやると、大抵の女は私に敵対心を持つのよね。
でもロックオンしたわよっていうのは、ちゃんと周りにも伝わらなきゃ意味が無い。

周りの視線など気にせず、徳田さんにのみ視線を注いで話しかけると、獲物になった男は、脳天気にヘラヘラ笑っていた。


「徳田様の分は今お持ちしますね」

「つぐみちゃん、おおきに。なーん、今日は玉ねぎか」

「そうですね。今見た目について刈谷さんに伺っていたところです」

「え、ええ」

「他にどんなところが気になりましたか? 先ほど言いかけたのは……」

「……いえ、いいわ。ごめんなさい。なんでもないの」


こんなイケメンの前で、毒舌全開になんかできるものか。

私は口をつぐみ、熱の入った視線で彼を見つめる。


「徳田さんは、どんなお仕事なさっているんですか?」


周りが引いているのもなんとなく分かるわ。
でも私、恋をするとダメなのよ。
周りなんかどうでも良くなってしまう。


数家さんが眉をひそめるのもなんとなく感じてはいるけれど、知ったことじゃないわ。

待ち望んでいた恋が、今目の前に落ちてきた。

それが一番重要で、他のことなどどうでもいい。



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