“毒”から始まる恋もある



試食会は終盤に向かっていた。


「いやあ、旨い。さすがやで数家くん。ここの料理はいつも素材にこだわってるなぁ」

「でも今回のワインは安価なものを使っているんです。値段を抑えたかったので」

「せやな。全部ええもんつこうとったらキリないもんなぁ」


徳田さんはよく話す。
話しながら食べる手が止まらないのは凄い。


「何かお気付きの点があれば教えてください」

「いや、旨いで? 味については申し分なし。玉ねぎ丸ごとってのも変わってるし。興味はひくんちゃうか?」

「……徳田様だったら頼みます?」

「そうやね。一度は試しに頼んでみると思うな。そんで美味かったらまた頼む。いけるんちゃう?」


徳田さんは、アッサリとそう言った。
正直、玉ねぎなんて興味本位だけで頼むかなと思いつつ、「そうですよねぇ」なんて迎合する私。

数家さんは、ひと通り話を聞き、私達がお椀を空にした頃お茶とアンケート用紙と封筒を持ってきた。


「またお気づきのことがあったら、こちらに記入していただければ。返信用封筒もお付けしますね」

「はいはい、ありがとさん。なあ、この後皆さんお暇でっしゃろか。新しいお仲間さんも出来たようだし、どうですこれから一杯」


徳田さんはコップを傾ける仕草をして、私にウィンクする。

マジ。行きますとも。
私のためにとかいう動機もすっごいイイ。


「こんなおじさんが混ざっていていいのかな」


北浜さんが緩やかに笑う。
邪魔ではないけど遠慮してもらってもいいわよって感じ。


「私は大丈夫です。ご一緒します」


いや、アンタは来ないほうがいいけどね。
可愛く笑う紫藤さんに表面上は笑顔を返しつつ、心で毒づく。


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