“毒”から始まる恋もある
契約書の書類をテーブルの上に置き、彼は手を顔の真ん中辺りで組んで顎をのせるようにしてにっこりと笑う。
「……徳田さんはお好みでした?」
うわ。なんだか直球が来たわ。
私は敢えてそっぽを向いて答える。
「なんのことよ」
「さすがに彼が来た途端に意見が変わられると分かります。徳田さんの意見に合わせようとしていたでしょう」
ですよね。分かりますよね。
私だって気づかれてることくらい知ってますよ。
「だってモロ好みだったんだもの。知ってるでしょ? 私この間誕生日だったの」
「三十歳のですね」
怒っているのか珍しく気遣いがない。こんにゃろう。
「そうよ。だから切羽づまってるの! そこに好みの男性が現れたんだもの。ちょっと取り繕うくらいいいでしょ。いきなり毒舌全開じゃあ、引かれるに決まってるもの」
「それは分かりますけど! ……参ったなぁ。刈谷様の意見をアテにしてたのに」
途端に口調が崩れた。前髪をかきあげて渋い顔をする。
あら? なんかいつもと違う。
コレが素?
笑ってない数家さんって何気に珍しいかも。
「別に新参者の私の意見なんてアテにならないでしょ」
「そうでもないんですよ。【E-MESHI】の書き込み見た時、俺、この人はポイントを抑えてチェックしてるなって思ったんですよね。飲食店って、味だけがよくてもダメなんです。接客、メニューの見た目、味、値段、栄養面はどうかなど、すべてが揃ってないとなかなかリピーターはつかないんです。でも、自分たちの店ばかり見ている我々では気づけないことが多い。それを対外的に確認するためにモニターをお願いしているわけですから」