“毒”から始まる恋もある
「ついでに遠慮無く言うけど、誕生日ケーキは辞めたほうがいいと思うわ。鍋と合わないもの」
「ああ、あれですか。メニューを選べば合わないわけでもないんですけどね。刈谷様のお友達は定番の和風のお鍋を注文されたので余計ですね」
「そういうの前もって言ってあげればいいじゃない。不親切よ。どっちも美味しかったのに、印象は最悪だったわ。あとさ、刈谷様ってのも辞めてくれないかしら」
「どうしてですか?」
「様付で呼ばれるのもなんか気持ち悪い。数家さん丁寧なのはいいんだけど、丁寧過ぎるのよ」
「では刈谷さんとお呼びすればいいです? でもなんか、自分の呼ばれ方と似ていて変な気分です」
「じゃあ私はあなたを数家くんって呼ぶわ。どうせ年下でしょ? それでどうよ」
「いいですね。そうしましょうか」
年下ってところは否定しなかったな。やっぱ私より若いのか。
「……あの」
会話が盛り上がっているところに水を差したのは、試食の席で一緒にいた女性店員だ。徳田さんに“つぐみちゃん”って呼ばれてた子。胸に【房野】というネームプレートが付いている。
「お話中すみません。数家さん、片付け終わりました」
「ああ。ご苦労様。今日はもう帰っていいよ、房野(ふさの)」
「はい」
彼女は頷き、ちら、と私を見る。
……って、随分時間が経っちゃってるじゃないの。
「やだ、私も帰るわ。せっかく徳田さんと飲めるのに」
立ち上がると、エスコートするように数家くんがついてきた。
「もう暗いですからお気をつけて。徳田さんにのせられないように」
ちょっと意地悪な笑み。
なんなの?
徳田さんとは仲悪いのか?