“毒”から始まる恋もある
「ねぇ、ちなみに徳田さんにはモニターさんとして何を期待してるの?」
彼は料理を褒めっぱなしだった。
少なくとも私に求められているような意見を彼に求めているとは思えない。
「彼は店長が連れてきたので。まあでも……流行とか目新しさがあるか、とかですかね。あの方が飽きたと思う頃が潮時と言うか」
つまり、新製品好きの目を引くかどうかってことか?
「でも彼がいると、他のモニターさんの意見がどうしても甘くなってしまうんです。あんな感じで調子よく褒めてるところで悪い意見は言い難いですからね」
「ああ。まあそうね」
「そこで刈谷さんに期待していたってわけです」
なるほど。
なんとなく納得した。
彼が現れた途端に私の毒舌が静かになったことに、嫌な反応をされたことも。
「それは期待に反して悪かったわ。でも、徳田さんの前ではあまり毒を吐きたくないのよ、私」
「じゃあ後ほどアンケートかメールでもいいです」
「そうね。メールにするわよ。郵送代って結構馬鹿にならないじゃない」
総務部にいる私としては、そういう諸費用には案外こだわる。
郵送代って、労力さえ惜しまなければ結構削れるものだし。
「助かります。また次回、お待ちしてます」
「……色々言ったけど、美味しかったわよ。それは本当」
最後に付け加えて見たら、数家くんは笑った。
それはいつもの営業スマイルではなく、ちょっと可愛いと思えるくらいのはにかんだもので。
その笑顔の方がいいんじゃない?
なんておせっかいを口に出そうとして何故だか出来ずに飲み込んだ。
なんとなく、せっかくだから自分だけで堪能しようと思ってしまったのだ。