“毒”から始まる恋もある
「紫藤さんは何飲んでるの?」
彼女を見ると、目元がやや赤く染まっている。何気にトロンとしているし、酔ってはいるみたい。
ってことはジュースなわけではないのだろう。
「カンパリオレンジです。美味しいですよ」
「じゃあ同じのにするわ」
「ほな、注文するな。食いもんは何がいい」
「さっき食べたから余っているものでいただきます」
あまり食べる女アピールはしない。
次の約束に繋げるまでは、あくまでも好感度をあげることに専念しなきゃ。
やがて注文品がきて、私は「わあ、美味しそう」とかカワイコぶってそれを飲む。
一口含んだ感想としては、“甘い”。
え、なんでこれで酔えるの?
完全にオレンジジュースみたいなんだけど。
「えっと、刈谷さんだったよね。なんや呼び名かたいなぁ。刈谷ちゃんって呼んでいい?」
「もちろん」
なんなら史恵でもいいわよ。
「刈谷ちゃん会社員って言ってたけど、どこなん? 普段なにしとるん」
「私、藪川商事で総務の仕事してるんです」
「え、あの藪川。エリートやん、すごいなぁ」
「凄くないですよ。ただの事務みたいなもので。入社出来たのも運が良かったんです」
謙遜も大事よね。
実際は、この会社入るために企業研究から立ち居振る舞いまで結構頑張ったけどね?
努力が成せた入社だと思っているわよ、本当は。
「徳田さんは営業さんでしたよね。どこなんですか?」
「俺? 俺は東峰ロジスティックの営業」