“毒”から始まる恋もある
「確かにあの店は接客とかも行き届いていますよね。数家さん、気配り凄いし」
擁護するつもりでポロリと言ってみたら、徳田さんの声はちょっと不機嫌になった。
「でも、気ぃ使いすぎやろ。あそこまでやられると気ぃ引けるわ。店長にもそう言ってんねんけどな」
「ああ……そうね」
顔合わせている時には気づかなかったけど、どうも数家くんのことは気に入らないようだ。
なんとなく同意すると、彼は朗らかな声に戻った。
『……すまんすまん、刈谷ちゃんにこんなん言ってもしゃあないな』
「いえいえ」
『もっと楽しい話しよか。刈谷ちゃん、仕事はどうなん?』
「仕事の話はいいじゃない」
盛り上がるもんも盛り上がらないわよ。
「徳田さんの好きな音楽とかは? 映画とか行きます?」
なんとなく、釣書の趣味の欄に書けそうな事を聞き出そうとしたら、しばらくの沈黙の後、小さく笑う声が聞こえてきた。
『刈谷ちゃん、こんな電話掛けてくるくらいやし、独りモン?』
うわあ、直球。
「そこはっきり聞く?」
『聞く。だって俺もやし』
「そうなの?」
よっしゃ。きた!
思わず拳を握りしめる。今が電話で良かった。見られてたらドン引きされちゃうところだ。