“毒”から始まる恋もある



 翌朝、興奮のため寝不足だった私は、通勤途中からあくびが止まらない。

電車を降り、駅構内の階段を下っている時、先の方に菫と里中くんが見えた。

一緒に通勤か。なんだかやらしい方に邪推してしまうわ。

ぎゅうぎゅうの人混みの中、里中くんは何度も菫を振り返り、一言二言掛けては前を向く。

あの小娘が気づいているかどうか知らないけど、敢えて隣を歩かず前に位置取りしているのは、後ろからついてくる菫の通行路をしっかり確保するためだろう。


「……ホントいい男」


菫みたいになれば、あんな人に愛されるのかな。
オドオドして、人に頼って、人を癒やす笑顔を振りまく。
……とてもじゃないけど無理だな。一つとしてできる気がしないわ。

無益な事を考えるのは止めよう。それよりも、徳田さんとの未来について考えよう。


「おはよう、刈谷」


考え事をしている時に、後ろからポンと肩を叩かれて驚いた。


「うわっ、誰」

「そんなびっくりするなよ。オレオレ」

「オレオレ詐欺か」

「そうあなたの息子です……ってチゲーよ。何だそれ」


後ろにいたのは、眼鏡男子の谷崎だ。

今日は黒地にストライプの入ったスーツ。これよく見るからきっとお気に入りのブランドものなんだろう。
あ、ほら。また眼鏡直した。その仕草、もう見飽きたからやるなよ。
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