“毒”から始まる恋もある
私はふと昨日の会話を思い出して手を出す。
「そういや、お金返してくれるって言ってたじゃん。ほら、返せ」
ただでさえこれから入り用なのだ。数千円でもあった方がいい。
「いやいや、土曜日暇だろ? おごってやることで返す」
「残念でした、暇って決めつけないでよね。土曜は予定があるんです。ちょっといい感じになりそうな人に出会ったんだよね。早速デート」
「はぁ? やっぱり昨日合コンだったんじゃん」
「試食会よ。でもね、出会いはどこに転がってるか分かんないのよ?」
谷崎の鼻先に人差し指を付きたて、横に振る。
「だから現金が欲しいわ。彼と上手く行ったらアンタと出かけるわけにいかないしさ。過去のあれこれは全部水に流して終わりにしましょ」
「ちっ」
谷崎は膨れた顔をして、渋々財布を取り出した。
差し出した私の手のひらに置かれたのは、四千円。それはそのまま私が誕生会の時に渡した金額だったはずだ。
「多すぎだった……んでしょ? これ全額じゃん」
「いいよ。祝儀も兼ねてくれてやる。どうせ長続きしないんだからパーッと行ってパーッと振られてこいよ」
「はぁ? アンタホント失礼ね」
そんなこと言われたらさすがにキレるし!
私はお金を乱雑に受け取ると、パンプスを鳴らして歩き出した。
やっぱり谷崎最低!
もう二度とあいつに気なんて許すもんか。
*