“毒”から始まる恋もある
「刈谷さーん、お待たせしました」
馴染みの美容師に呼ばれ、髪のカラーとセットをしてもらう。
「まだそんなに伸びてなかったのに、なんか大事なご予定でもあるんですか?」
「そうね。人生がかかっているかもしれない」
「わかった! お見合いですね?」
「残念。違うわ」
まあでも気分的には似たようなものだ。
とにかく今までで最高の出来にしてちょうだいと頼んだら、最後のセットの時に時間をかけてくれた。
まあこれを明日まで維持できるわけじゃなんだけど。
「無理言ってゴメンなさいね」
「いえいえ、頑張ってきてください」
お支払いを済ませ、店を出る。
一人で歩くときに携帯をもてあそぶのはなんだか癖になってしまっているようだ。
「あ、メール来てる」
発信者は【U TA GE】
きっと数家くんだ。早いな。営業時間中じゃないの?
【そうでしたね。玉ねぎは冷え性改善、アンチエイジング効果や疲労回復効果があるそうです。刈谷さんもぜひまたお越しくださいね】
「……嫌味か?」
アンチエイジングは言わなくてもいいわよ。ちくしょうめ。
まあでもいいか。
仮に嫌味だとしても、なぜだか自然に口元は笑っちゃうし、気分は悪くない。
髪を綺麗にして気分いいからかな。
そんな会話も、楽しいもんねなんて思ってしまう。