“毒”から始まる恋もある
「でもきっとベストセラーを出したことで彼の復讐は完了なのよ」
「なんで?」
「だって、父親も母親も作家でしょ? 母親の出した売上部数を自分の本で超すとか最大の復讐じゃない」
「うっわ、こわ」
徳田さんが身震いをする。
でも私的には面白かったな。下手なラブロマンスより良かったかも。
「刈谷ちゃんも怖かったろ。気分変えよか。飲みに行こ」
別に怖くはなかったけど、その提案には乗る。
「うん。でもいま珈琲のんだばっかりだから、ちょっとブラブラしましょうよ」
「おーええよ」
「雨やまないわね」
まだポツポツと地面を濡らす雨。
お気に入りの白地に黄色の模様がある傘をさそうとしたら横から手を伸ばされた。
「人も多いから、一つの傘でコンパクトにしましょうや」
「……相合傘?」
「そゆこと」
なんて粋な誘い方をするのでしょ。
傘を差して私を迎え入れる彼の腕に、そっと手をかける。
「濡れないように、ね」
「ええ、ええ。恋人同士みたいや」
雨降りなのに、心が弾む。
やっぱりこの人いい。
格好いいし、女の子を喜ばせるツボも抑えてる。
店を出て、そのまま通りにある店をウィンドウショッピングしたけれど、隣の彼ばかりが気になって頭にはいらない。
距離が簡単に縮まったのは、雨のおかげかな。
だとしたら、この先雨が好きになれそうな気がする。