“毒”から始まる恋もある


 徒歩だから移動距離は少なく、いくつか店を巡ったあと、駅ビルの地中海風居酒屋に入る。
白地の壁に海をイメージした青地の波模様が描かれている。ところどころに貝殻や投網みたいなものが飾られていた。

徳田さんが食べ歩きが趣味だと言っていたのは本当みたい。彼はいろんな店を知っている。


「ハイ、飲んで飲んで」

「頂きまーす」


 一応今日もカクテルを中心に頼む。徳田さんはいつもビールだ。


「徳田さんは食通だけどお酒はいつも同じなの?」

「え?」

「ほら、日本料理なら日本酒とか、この料理ならワインとか。合わせたりしないの?」

「あんまりせんね。ほら、一途やから?」

「あはは」

「刈谷ちゃんこそ、もっと飲めそうな顔してるなぁ。好きなもん頼んでいいんやで。実は酒強そうやん」

「あー、まあね」


そうよね。そこは直ぐボロが出るよね。


「じゃあ、ワインいただきます」

「了解。すんません、ワイン一本」

「え? 一本?」


そんなに飲みきれる?


「ええやん。俺も飲むし」

「ああ、ならいいけど」


最初はグラスを合わせて乾杯していた。
だけど、最初の一杯以降徳田さんはまたビールに戻ってしまった。
これが一途か、ちくしょう。

残ったらどうするのよ、もったいない。仕方なく、なんとなくハイペースで飲む。

まあ、美味しいからいいんだけど。

でもさすがに飲み過ぎかもしれない。


「もう食べられないし飲めない……」


残すのも惜しいので、結局ほぼ一人で一本開けた。
会計を済ませて外にでると雨は止んでいる。
私の傘を手に持って歩き出した徳田さんの後を、少しふらつきながらついていく。
転びかけて徳田さんの肩にぶつかったら、彼は私の肩を支えてくれた。
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