“毒”から始まる恋もある
逆に、数家くんの声はリラックスしてきた。
「刈谷さんはあまり和洋折衷がお好きじゃないんですよね」
「まあね。玉ねぎのやつに和菓子とか出されたらキレるから」
「はは。それは逆に面白いかも知れません。考えておきます」
「やめてよー」
ひとしきり笑ってから、数分が過ぎてしまっていることに気づく。
「ごめん、長くなっちゃったわ。……今日は混んでるの?」
何気なしに聞いたら、しばらくの沈黙。
「……そうですね。平日ですからさほど。でも、ちょっと緊張していたところだったので、なんか助かりました」
「は?」
意味の分からない発言を不思議に思って出たのは素っ頓狂な声。そしたら、数家くんはクスクスと笑った。
「刈谷さん、案外義理堅いんですね。本当に新メニューを食べに来ていただけるとは思ってませんでした」
ああ、メールでそう書いたからか。
あの時は社交辞令で書いただけだったけどね。
「いいお客でしょ」
「はい。ありがとうございます。本当に。十九日、金曜日お待ちしておりますね」
「うん。宜しく」
ちょっと寂しい気がしたけど、まあ忙しいところ長電話もなんだし、と電話を切った。
かける前の変な虚無感は、すっかりなくなっていた。