“毒”から始まる恋もある
8.お好みの料理は?
サダくんとのデートの日。
私は例によって就業後に化粧室で身支度を整える。
「今日はデートですか?」
「そうよ。気合入ってるでしょ」
「綺麗です、とっても」
菫が、ふんわりと笑って化粧室を出て行く。あの子もっとアイライン綺麗に引けばいいのに、とか顔見てると思うけど、そうしなくても菫はそこそこに可愛い。私なんてつけまつげがないとかなり地味な顔になるのに。
素で可愛い女はいいわね。
「まあいいわ」
足りないところは人工物で頑張ればいいだけだ。
マニキュアも昨晩綺麗に仕上げた。
むくみ予防の加圧ストッキングに包んだ自慢の足。パンプスは足を一番綺麗に見せる七センチヒールで、今日は更に脚長効果を狙ってベージュ系にした。
トップスはパールピンクのインナーにジャケット、スカートはちょっとオフィスではどうなのと思わないこともない明るい柄物。部長は嫌な顔してたけど、今日は外部に出る予定もなかったし問題ないっしょ。
あとはこの口紅とグロスでプルプルの唇にすれば完璧。
意気込んで向かった待ち合わせ先は、ちょっと遠かった。
時間にして三十分。電車を二つほどのり継いだ。
じわりと足が痛くなってきて、イライラしてくる。
なんなのよ、もっと会社の近くにしてくれればよかったのに。
でも、駅のホームで彼が手を振っているのを見ると、不満は直ぐに小さくなってしまう。
これが惚れた弱みってやつかぁ?
「史ちゃん、こっちこっち」
「サダくん、お待たせ」
「仕事の後歩かせて悪いなぁ。でも史ちゃんを連れて行きたい店があってん」
「どんなお店?」
「見てのお楽しみや」