“毒”から始まる恋もある
「上田、すぐ行くから厨房で待ってて。これ、先に渡しておいて」
「はい。すいません」
上田くんという小柄な店員に注文票を渡し、下がるように言う。
そして私の方に向き直ると、にっこり笑ってみせた。
「すみません。驚かせてしまって。……お帰りですか?」
「ええ。まだ連れがいるので会計はそっちがするわ」
「ありがとうございました。またお越しください」
意図的なのかそうでないのか、まるでエスコートするように会話をしながら入り口付近まで連れてこられる。
そして、ふと彼は考えこむ仕草をして私を見た。
「刈谷……様。お誕生日でご予約のお客様?」
「え? ええ」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
ほらー、やっぱり店員まで覚えてる。最悪だわ、全然めでたい歳じゃないわよ。
「あ、そうだ」
店員はにっこり笑うとレジの近くの棚から何やら取り出す。
「こんなものしかないんですが当店の割引券です。もしよろしかったらまたお越しください」
手渡されて、お辞儀をされた。
思わず息を飲んでしまう。
なにこれ。くれるの?
誕生日プレゼントってこと?
「どうも」
「良い記念日になりますように」
店員はにっこりと笑う。私はそれを横目で見たまま店を出た。