“毒”から始まる恋もある

店内はもともと倉庫だからなのか、あまり綺麗な感じはない。

ただ、屋台が並んでいるからとても活気づいて見える。
言うなればうらぶれた路地裏に屋根を付けたような雰囲気。


「こちら、玉ねぎのワイン煮込みになります」

「え?」


驚いて、顔をあげる。

それって、【U TA GE】の新メニューじゃ、とサダくんを見ると、彼は瞳に悪戯っぽい色を宿したまま口の端元だけを緩ませた。


「ワイン煮込みは別に【U TA GE】の専売特許でもないんやで」

「そうだけど。……まさか新メニューとして考案していたものが出てくるなんてビックリで」

「モノもちゃうやろ。こっちのは玉ねぎに切り込み入っとるし、赤ワインで煮てある。それにほら、肉もでかくて美味そうやで」


確かに、見た目は全然違う。
ごろりとした豚肉の存在感があって、これだけでずっしりとお腹が膨れそう。ただちょっとくどいかな。なんだか胃に残りそうな重たい味。

他の料理もおいしいんだけど、なんだかアンバランスだな。

沢山の料理があるから楽しいけど、もう少し一つ一つの味付けにこだわってくれたらいいのに、なんて思うのは客の贅沢か。


結局統一感のないメニューのためか、いちいち口を洗い流したくなって、ビールは逆に進んだ。


「今日はええよ。おごり」


サダくんが財布を持って片目を瞑ってみせる。「ごちそうさま」と告げ、彼の後に続いた。

倉庫街は寂しいかと思いきゃ、結構人通りはある。民家は少ないけど、企業は多いような一角だ。仕事帰りの会社員の通り道になっているのだろう。


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