“毒”から始まる恋もある



日々は可もなく不可もなく過ぎていき、あっという間に十九日。

その間、サダくんとは電話だけだ。なんかもうちょっと「会いたい」とか情熱的なセリフを待ってるんだけど、軽そうな割に淡白な彼は甘い言葉は会った時しか話さない感じ。

金曜日、約束の八時に合わせるため若干の残業を盛り込んだ私は、六時半で仕事を終えドライヤーセットを持って化粧室にこもる。

 バッチリ見た目を整えて出ると、遅れてやってきた菫が私を見て「はああ」と声を上げる。


「刈谷先輩、気合入ってますね」

「そりゃあねー。彼氏に会うんですから?」

「先輩の彼氏に会えるの楽しみです」


ニコニコ笑う菫の前ではやたら“彼氏”を強調してしまう自分にちょっと違和感。
気づきたくはなかったけれど、私、なんとなくやっぱり対抗している気がする。

悔しいから?
まあ、菫ごときに里中くんを奪われたことは正直ショックだったけどさ。

でも、今は私も幸せなんだし、こんな態度を取る必要なないはずなんだけどな。
わかってるけどなんだかモヤモヤする。


ロビーで待ち合わせた里中くんは、エレベーターを降りた時に直ぐ見つけられるほど目だつ。
顔がいいのもあるけど、体も大きいのよね。

相変わらずの王子様オーラは、道行く女性の視線を一瞬攫う。
菫が時々困ったような顔をするのは、敵意に似た視線を投げかけられるからだろう。


移動途中に、サダくんからメールが入った。


「彼、ちょっと遅れてくるって」

「そうなんですか」

「しかし、刈谷さんに彼氏ができていたとは初耳だった」


ちらりと里中くんが私を見る。

そうよ。
どうだ、いつまでもあなたに執着なんてしてないんだから。

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