“毒”から始まる恋もある


「……谷崎じゃないよね」

「なんで、最近谷崎押しなの?」

「いや、あいつ本気そうだったから。かわいそ」

「んなわけないわよ。私とあいつ同期よ。本気になるならもっと前からなってなきゃおかしい。あれは……」


体目当てよ、と言いそうになって自重する。
さすがに、荒れて一晩明かしちゃった話は里中くんにはしたくない。


「まあいいけど。楽しみだよ。その店、菫も世話になったそうだし。一度行ってみたかったんだ」

「あらそう」

「美味しかったですよ。新メニューも楽しみです」


四月に入って新入社員がはいったから、菫も忙しそうだものね。
部ごとの飲み会なんかも多い季節だから、二人揃って外食するのは久しぶりだったりするのかしら。


「ここよ」


【U TA GE】の外装を見ると、「これ鍋の店?」って皆言う。
里中くんがご多分に漏れずその反応をしたことがちょっと楽しい。

そしてその後、中に入ってその匂いに戸惑っている間に、数家くんがやってきた。


「いらっしゃいませ。刈谷様、お待ちしておりました」

「数家くん、こんにちは」

「人数変更ですか? 四名様で伺っておりましたが」

「ああ、一人後から来るわ。先に始めているから案内して?」


それがサダくんであることを、言おうとして辞めた。
ここに彼が混ざったら、きっとびっくりするわ、数家くん。


「お料理のほう承っておりますので、お飲み物だけお決めください」


お冷とおしぼり、それにお通しを出しながら、数家くんが言う。

六人がけの広い席で荷物も悠々と置ける。
店内の奥のほうだから空調もちょうどいい。

いつも思うけど、彼は予約の時はとてもいい席を選んでくれる。
当日のお客さんも、早く入ればいい席に入れてもらえるんだろうなと予測がついた。

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