“毒”から始まる恋もある
ほうほう。忙しそうだけど映画なんて行くのね。
彼女とデートとかかしら。
やっぱりこのくらい気配りの効く男は忙しくても彼女を放置したりしないのね。
ちくしょー、私は予想より放置されているわ。悔しい。
「最後の方ぞわりとしたわよね。私、かなり興奮した」
「俺は少年と恋仲になった女の子が気になりましたね」
予想外な事を言い出された。
確かに、虐待に遭っていた少年を励ます女の子はいた。でもあまり画面前面には出てこなかったけど。
「そう? でもあれはちょっとしたほのぼのエピソードだったんじゃないの?」
「いや、あの子、密かに存在感ありましたよ。それまで『言いなりにならなければ生きていけない』と思っていた少年が、事故死に見せかけて両親を殺せるに至った心境の変化のキーはあの子にあったのかなと思いました」
私は映画の内容を思い出した。
言われてみれば、洗脳されているくらい親に逆らえなかった少年が、殺人まで起こすにはなにかきっかけが必要だった気がする。
「ふうん。……確かに、そう言われて思い返すとそんな気もするわね」
面白い。
自分が気づかなかったことを指摘されると、視界がひらけるような感覚がある。
「刈谷さんは、どうして青年が十五年後に告白本とも取れる本をを書いたんだと思いました?」
「どうしてって……バレても時効だからじゃないの?」
「アメリカには時効はありませんよ」
「えっ、そうなの。じゃあなんで?」