“毒”から始まる恋もある
「想像の域を越えませんけど、もしかしたら殺したのは男ではなかったかもしれませんね。
ラストに出てきた男は狂気の独身男だった。それは彼と恋仲の少女が平穏無事に結婚までいたらなかったことを意味します。
とすれば、色々想像できます。
彼女が殺人を計画し実行した。そして彼が遺産を継ぎ、それはほぼ同時に彼女のものとなった。しかしその財産がいつまでも続くものではありません。金の切れ目が縁の切れ目となり、正気を失った男が告白本をしつらえることもあるかもしれません」
「それで言ったら、女の子が犯人だったってこと?」
「そういう考え方もできますねってことです。人が代われば違う解釈もあるでしょう。刈谷さんはどう思いました?」
「私は……、告白本を出すことで男が両親への復讐を完結させたんだと思ったわ」
「というと?」
「両親とも作家でしょう? 彼らの死でもって彼らの販売部数を超す。完全無欠の復讐かなって」
「結構エグいですね。でも面白いです。そんな考えもありますよね」
数家くんが楽しそうに笑うから、私は夢中になって話していたらしい。
ふと、視線を感じて正面を向くと、菫が食い入るように私を見ている。
「……なによ」
「あ、ごめんなさい。凄いですねぇ、刈谷先輩。映画でそんなに色々考えるなんて。私なんて見たままをそのまま受け入れちゃいますけど」
「イヤでも数家くんのほうが凄いわ」
「すみません。つい夢中になりました。刈谷さんの発想は面白くてつい。お連れ様がお越しになったらお呼びくださいね、直ぐお料理追加しますから」
どうやら三人分と一人分を分けてくれていたらしい。
そこら辺の気遣いもさすがというかなんというか。