“毒”から始まる恋もある
9.ダブルデートの合間に
遅れてきたサダくんの分の料理をだし、いつもどおり丁寧な接客をしてくれる数家くん。
だけどさっきから目を合わせてくれなくなった。
なんなのよ、驚かせたかもしれないけどそんな態度取ること無いじゃん。
さっきまでの会話にあった親しさが無くなったようで、無性に寂しい気分になる。
「皆、史ちゃんと同じ部署なん?」
「違うわ。里中くんだけは営業よ」
「え? 営業なん」
何故か一瞬体を固まらせるサダくん。
どうしたのよ。営業同士なら逆に話も弾むのかと思ったのに。
「徳田さんは東峰ロジスティックの営業なのよ?」
「仕事の話はええやん、史ちゃん」
「や、そうなんだ。俺の先輩の桐山が、取引してる海外企業の商品を倉庫に入れさせてもらってるって聞いたことあります。里中と言います、よろしくお願いします」
里中くんが名刺を取り出し、差し出す。
サダくんは渋々と言った調子で受け取り、苦笑いを浮かべる。
「ああ、まあ。よろしゅう。すんません、名刺入れおいてきてしもうたん。ま、こんな場やし、仕事の話は無しってことで」
ぎこちなく微笑んだ彼は、「それより食べましょか」と話題をメニューに戻す。
里中くんはそれを受け、手元の料理に手を付けながら話し始めた。
「創作料理っていうのかな。面白いですよね、玉ねぎをメインにするとか」
「まあ旬やからね。インパクトは弱いかなと思うねんけどな」
「そうかな、俺は結構好きですよ。酒のつまみとしては面白いと思う」
里中くんは、ここのメニューが気に入ったようだ。菫が隣で、「ですよね、ですよね」って喜んでいる。
サダくんはちらりと菫を見て、タレ目をだらりと下げた。
「それにしても、史ちゃんの会社は美人さん多いなぁ」
その瞬間、軽く里中くんの眉間にしわが寄ったのは、おそらく私しか気づいていないと思う。