“毒”から始まる恋もある
ドアを閉めた途端に喧騒が消え、車の走る音が主流に変わる。
都会は刺激的で先進的で楽しいけれど時折うるさい。
何も音がないという状態がそもそも存在しないのだから。
ちょっと不思議な店だったな。
居酒屋っぽい感じの割に鍋を主流にするってのは新しいけど、鍋って立て続けに食べると飽きるのよねぇ。
帰り道、ご贔屓にしているグルメサイトで今日の店を検索し、口コミを入れる。
【料理はまあまあ。鍋が主流で飽きるかも。
人気はあるのかそこそこ混んでる。
ちょっと騒がしいかな。宴会利用にはいいかも。
あとは、誕生日にケーキ注文が可能のようだけど、鍋とは合わない。そこは減点】
ネットへの書き込みは気を使わなくていいからいい。
どんな毒舌吐いたって、匿名だから私だって気づかれることは無いし。
普段嫌がられる毒をいっそ思いっきり吐いてやる。
ちなみにハンドルネームは“シンデレラの義姉”
性格悪いのを前面に出すのにピッタリな名前だ。
書き込んでいる内に駅までついた。
駅までの立地の良さはポイントに入れてもいいかな。
あとそうね。
大事なのは店員がそこそこイケメンだったってことか。
他の書き込みにもそれは結構書かれてる。
どんな女の子も考えることは一緒ね。
ホームに入るとすぐに電車はやってきた。
乗るほうが多くて降りる人は少ない。
あーあー。混んでるな、ついてない。
仕方なく入り口付近に陣取って、ポールにもたれかかるようにしてため息をつく。