“毒”から始まる恋もある
「あ、ゴメン、電話や」
会話を割るような軽快な着信音に、サダくんがスマホを持って立ち上がり、レジに一声かけて外にでる。
「お忙しいんですかね。あ、すみません、私もトイレに」
もじもじとしていた菫もそう言って立ち上がり、図らずも里中くんと二人きりという珍しい状況になった。
でももう、浮かれたりしないぞ。むしろからかってやるわ。
「相変わらずヤキモチやきなのねー」
里中くんはちらりと片眉をあげ、「まあね」と冷静に返してきた。
ちぇ、ちっとも動揺しなくてつまらない。
「刈谷さんも、ちょっと変わった人と付き合ってるんだね」
「そう? 格好良くない?」
「格好いいとは思うよ」
なんか言い方に含みがあるな。胸の奥がざわざわする。
「でもさ……、あ、ごめん」
今度は里中くんのスマホが鳴った。なんなのよ、皆忙しいわね。
彼はちらりと化粧室の方角を確認すると、私に「ごめんね」と言い、その場で話始めた。
「あ、ええ。すみません、お忙しい時に。大丈夫ですか? じゃあ、一度相談に伺います。ええ、そう。7号サイズです。そうですね、そこはその場で相談させてください」
他に話し相手もいないので、なんとなく食べ物をつまみながら、彼の会話する姿を見る。
7号って……服じゃないだろ、指輪か?
もしかしてこの二人って……。
胸のざわざわがどんどん大きくなる。
電話を切り、化粧室の方を見て菫がまだ出てこないことを確認した彼は、はーっと溜息をついた。人差し指を立て、私に向かってニヤリと笑う。