“毒”から始まる恋もある


「ほな、行こか。史ちゃん」


電車に乗るのかと思いきゃ、サダくんはそのまま歩き出した。


「今日は、ありがとうね、サダくん」


思えば、私の同僚と会うのは緊張したかもしれないし。


「ええよ。知り合い増やすのは好きなん」


笑ってくれたことにホッとして笑い返すと、彼は振り向きながら私との距離を詰めた。


「これからどうする? もう一軒くらい行こか」


ホントお店巡るの好きなんだなぁ。
でも、私はもうお腹は一杯。酔ってはいない……けど。

せっかくの金曜の夜だし、もっと飲んで羽目を外すのもいいっちゃいいんだけど。


「……サダくんの家に行ってみたい」


意を決して言ってみたら、彼は足を止めた。

げ、驚かれた?
ガツガツした女に見られるかしら。

けれど、予想よりも柔らかい笑顔で彼は笑った。


「史ちゃん、大胆やなぁ。家に来たらただじゃ帰さんよ?」

「い、いいわよ。望むところだわ」

「はは。喧嘩じゃないねんから」


彼の腕の掴んで、半ば必死に願う。

このまま、一人の部屋に帰るのだけは嫌だ。
飲みつぶれて、この間みたいになるのも嫌。

彼を選んで、彼に選ばれたっていう結果が欲しい。

私達が付き合っているっていう証みたいなもの。
それは体を繋げることだけじゃないのかもしれないけど、しないよりはしたほうが自信が持てる気がする。


「ええよ。そしたら電車やな」


手が伸ばされて、私のそれを攫う。

ドキドキする。触れた手が暖かいとかそんなことに、少女の頃みたいに胸がときめく。
と同時に、変な後ろめたさが消えない。

なんでよ。
後ろめたくなんかないはずだ。
私はサダくんが好きなんだから。

ちらつくのは、さっき電話していた時の里中くんの顔。
迷いなんて一つも無いと言わんばかりに、菫との結婚を語った彼。


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