“毒”から始まる恋もある


「飲む? それともシャワー浴びる?」

「そうね、一応乾杯しましょうか」


コンビニで買ってきたビールとチューハイで乾杯。

少しはロマンチックにしてみようかとカーテンを開けてみたけど、隣のマンションの窓しか見えなくて直ぐに閉めた。
残念、夜景でも見えたら良かったのに。


「何に乾杯する?」

「んー。二人きりの夜に?」

「サダくんって時々気障ね」

「そやろか。こんなもんやろ、男なんて」


タレ目が更に下がる。
彼の隣に腰を掛け、息のかかる距離で飲んで話して、キスをする。
口に残ったチューハイの味が、ビールに苦味と混ざりあう。そしてまた、チューハイの味で洗われる。

飲みながらキスを交わすなんて、凄く世慣れた女のようで、酔ったわけでもないのに頭の芯がぼーっとなっていく。


「……かわええなぁ、史ちゃん」


可愛いって言われるのは嬉しい。

ずっと里中くんを追いかけてきて、会社のメンツには引かれまくってた。
怖いモノなさそうとか、がっついてるとか、その通りだとは思うけど、傷つかないわけじゃないのよ。

私はただ。
ただ、誰かに……。


遊びのようなキスが、深いものに変わる。
大きな手のひらが、腕から背中に回り、やがて胸元を滑っていく。


「ん……」

「ほんま、かわええ」


体が熱くなって、呼吸が荒くなる。
求められているのが嬉しい。

そっとベッドに押し倒されて、彼の体の重みを感じる。伏目がちな彼の顔を頭に焼き付けて目を閉じる。

後は、全部彼に委ねよう。


だって私はずっと。



誰かから、無心に愛されたかったんだもの。



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