7月9日
初めて話した時から、何となく、一緒にいることが増え、気付けば隣の席にいることが多くなった。
いつも着くのが早いあたしが、彼の分も席をとった。
「おはよ」
少し眠そうな声。
「めずらしいね、いつも1限遅刻なのに」
「俺はやるときはやるの」と、あたしの頭を軽く叩いた。
うそだ。
講義が始まるといつだって寝てるくせに。

「そういえば、お前いっつも早いよなぁ」

出会ってまだ1週間だというのに、「お前」なんて言い方も、何の約束をしてるわけでもないのに、当たり前のように隣にいることも、何だかうれしかった。

「バスで来てるからね」
「あぁ〜。1本乗り過ごしたらアウトってやつ?」
「うん、1時間に1本しかないから」
「うわ!ホントに?すごい」
彼は信じられないといった顔をした。
うちの大学は変わっていて、学生の車通学が認められていた。
だから、あたしのようにバスが1時間に1本しかないような学生のほとんどは車で通っていた。

「車で来たら?」
「だってまだ免許ないもん」
あたしは口をとがらせる。
「早くとれよ!あ、もしかして車嫌い?」
「ううん。ドライブとか好き」

ここで彼はにっこり笑って、こう言った。
「じゃぁ今度ドライブ連れてってあげるよ」

あまり自分のことを話さない彼のこと、きっとただの社交辞令だ。
ケータイの番号は交換したが、彼からのメールが来ることはなかった。
あたしからも送らなかったけど。
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