白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~
それからは強い発作が起きて私は薬で眠っていた。
痛みを抑えるための薬はとても強い。
意識が飛んでしまって起きたときには私は微睡みの中にいる。
普段の寝起きとは違う。
力が入らない状態からぼやけた視界が晴れていくのと同時に少しずつ、手の先に、足の先に血が通っていくのを感じる。
頭のもやはすぐには晴れていってはくれない。
何度目の呼吸だろうか…
何度心臓が脈を打ったのだろうか…
瞬きの数は?
こんなことを‥
そう、何回考えたのだろうか。
「あ、明奈さんだぁ」
私はようやく微睡みの中から這い出て、意識を取り戻した。
「おはよう」
明奈さんは安心したような顔で笑っていた。
細いきれいなゆびが近づいてきて、私の頭をやさしく撫でてくれた。
ちょびっと温かい手が心地良い。
「…今回はどのくらい?」
頭を撫でていた手がピタリと止まった。
「一日と6時間よ」
自分で聞いたのだけれど私の心は真っ白だ。
「あと9日か…」
私は無意識にそれを数えてしまっていた。
それは言葉になって真っ白なシーツに吸い込まれる。
「なぁに?何の…」
何の日数?と聞こうとしたんだろうな。
明奈さんの言葉が途中で止まった。
流れ込む日の光が眩しかった。
薄手のカーテンの向こう、東へと向かう一匹の鳥を目で追っていたんだ。
明奈さんが病室を後にする。
「あれ?」
今日は五分経っていないのにクロがいつの間にか病室の中に現れていた。
クロの表情はいつも変わらないんだな。
私も真っ白だけど、クロは見てくれは真っ黒だけど、心というのがあるのならきっと。
「なんで今日は現れるのが早かったの?」
クロの深い黒の瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。
「それは、きっと君が一番よく分かっていることだよ。僕は君の--だから」
「えっ?君のなに?」
クロは目をつむって、ゆっくりと細く目を開けた。
「今日はわりかし涼しいよ。日差しは強いね。君の回りが輝いて見える」
窓の外を見つめた後で、クロは私の方を向いてそんなことをいった。
格好いい言葉なのか、可笑しな言葉なのか判断が難しいな。
でも、何でかな?
その言葉に対する私の言葉は決まっていた。
「ありがと」
もう、私の命は両手で数えきれるようになってしまった。