白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~

そわそわする。

背中がどこかむずかゆくなって、胸がちょっぴりドキドキしている。

面会はいつぶりになるだろうか。

昨日消えてからクロは姿を現さない。

「本当に死神なのかなぁ…」

私はだクロが何者かを知らないでいる。

でも、クロにはあの日に初めてあったわけではない気がするんだ。

きっともっと前に、いつかは分からないけど、そう。


私はきっとクロに会ったことがある。

トントン。病室のドアをノックする音。

だって、あんなに安心したんだもの--

「おはよう真白。調子はどうだい?」

院長の温かな笑顔が、ゆっくりと開いたドアから私の病室に咲いた。

私に名前をくれた人。

初めての温もりを教えてくれた人。

たまにだけどこんな私に会いに来てくれる人。

私は親の愛情とかを知らないけれど、きっとこういうものなんだろうとは思うんだ。

「今日は顔色も良いねって明奈さんに、あ、看護師さんに言われたよ」

「そうかそうか!それはよかったなぁ」

私はきっと院長のことが好き。

でも、どうしてもそんな大切な人よりも、私はクロに会っているときが一番安心してしまう。

「タカは高校受験だって急に頑張りだしたぞ。アヤは今まで通りどこでなにやってるんだか?ははは」

他愛もない話。

院長は笑顔で話をしながら、時おり掛け時計に目をやった。

理由は簡単なことで、私の面会に当てることができる時間は短いのだ。

「しょーちゃん元気?」

私がその名前を呼ぶと院長は「お、きたか」と嬉しそうな表情を見せた。

「今日真白に会いに行くと言ったら僕も行くって泣いてたよ。本当に翔太は真白になついていたもんなぁ」

私が物心ついた頃には何故か私の隣にはいつも4つ年下の翔太がいた。

私を本当の姉の様に思ってくれていたのかは分からないけれど、夕飯のテーブルはクジで決めたのに私の隣がいいと泣いたこともある。

私はそんな翔太が苦手だった。

家族を知らない。

周りにはたくさんの子どもと世話しなく動く大人。

だから鬱陶しかった。

「耳は…?」

一度だけ私はまだ3歳になったばかりの翔太を突き飛ばしたことがあった。

藤花院の庭にある花壇の側で突飛ばし、翔太はタイル張りの硬い花壇の角に左耳を打ち付けてしまった。

「大丈夫だ。傷口も段々と目立たなくなってきているよ」

初めての大量に流れ出す血の色に足がガクガクと、震えたのを鮮明に覚えている。

翔太は泣き叫んでいて、院長が蒼白な顔で走ってきた。

「…そっか」

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