白黒の狂想曲~モノトーン・ラプソディー~
明奈さんが病室を去ってから五分くらい経つ。
私は個室の中をゆっくりと見渡す。
閉められたドアの向こうから、元気な患者さんとナースの笑い声が微かに聞こえている。
そして、今日もやっぱりキミは来てくれたんだね。
「こんにちは」
私の真っ白な世界に時間制限付きの新たな色が混じる。
いつもの黒いマント?に黒い布の薄そうな服。
墨の色みたいに真っ黒なボサボサの髪の毛の中から、更に深い黒の瞳。
「こんにちは」
キミはいつもボソっと呟く。
初めて出会ったあの日に名前が無いと言ったキミ。
私は見た目をそのままにキミをクロと呼ぶことにした。
「今日もご飯美味しかったなー!焼き魚とお浸しっていうのかな?それに真っ白なごはん」
私の一方的な喋りをクロはいつも黙って聞いてくれる。
「あ、そうそう身体の調子も良いみたいでね!歩行訓練が進めば外出だっ…て?」
話している途中に胸の奥から激痛が広がった。
「君に外出はできないよ」
クロは嘘を付かない。
クロが私の前に現れたことが、私に一つの未来が真実であることを黙々と告げる。
「そんなことない。だって…わたし、あっ。まだ」
私は胸に握りこぶしを当てて、うずくまりながら目をつむった。
そして坦々とその言葉を繰り返す。
声には決してださずに、ただただその言葉を祈るように。
こいねがいながら。
ひたすらに。ひたすらに。
そんな時、クロはいつも寂しそうに私のことを見つめているんだ。
そのことに私が気付く頃、胸の痛みは徐々に引いていくのだった。